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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(オ)789号 判決 1980年1月18日

上告人

源田明一

右訴訟代理人

菅沼政男

被上告人

第二国際タクシー株式会社

右代表者

波多野元二

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菅沼政男の上告理由について

訴外堀越義一が被上告会社を退職したのち被上告会社に再雇傭されるまで六か月余を経過しているなど、原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人が右訴外人の退職前に同訴外人を債務者として得た右訴外人の被上告会社に対する給料等の債権差押・取立命令の効力が再雇傭後の給料等の債権について及ぶものではないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(木下忠良 栗本一夫 塚本重頼 鹽野宜慶)

上告代理人菅沼政男の上告理由

一、原判決は判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背があり、破棄されなければならない。

1 本件は、上告人の訴外堀込義一に対する債務名義をもつて、同人の被上告人に対する給料等の債権を差押取立命令を得て取立していたところ、右訴外人が一旦退職して後、再度被上告人に就職した場合、退職前の債権差押・取立命令は、再就職のさいの給料等債権にも、その効力が及ぶか否かが争点であると思慮される。

第一審判決は、これに対し、退職前の差押、取立命令の効力は(退職が仮装のものであるか、中断の期間が短いときを除き)再就職の給料等債権には及ばないと判断し、控訴審判決もこれを支持し、退職前の給料等債権と再就職時の給料等債権とは時間的間隔から同一性を認められないと判示する。

しかし、右は法律の解釈を誤つたものである。

退職前の給料等債権と再就職の給料等債権とは全く同一のものであり、差押・取立命令の効力は再就職の場合にも及ぶと解釈しなければならないところである。退職前の給料債権と再就職後のそれとは全く同一である。

債権者も債務者も、第三債務者も共に同一であり当事者に相異は全くなく、債権の内容も「給料並びに賞与等の債権」であり、俸給又はこれに類する継続的収入(民訴六〇四条)で同一である。

成程、給料等の債権発生の原因となる雇傭契約成立の日時は退職前と、再就職の場合とでは相違する。しかし、これも債権の同一性を阻害する理由にはならないのである。

なぜならば、差押命令・取立命令における差押債権目録を一読すれば判ることである。「昭和○○年○○月○○日成立の雇傭契約にもとずく」なる雇傭契約成立の日時を特定する文言は一切記載されていないのである。

債権者たる上告人も、差押命令取立命令を発した裁判所も、共に(雇傭契約成立の日には関わりなく)債務者の第三債務者(被上告人)に対する給料等の債権について差押し、取立命令が出されたものとしているのであり、それでなければ、差押・取立命令に雇傭契約成立の日が記載されていなければならないのである。

以上のとおり、退職前後の債権は同一であり、再就職の場合の債権にも差押・取立命令の効力が及ぶと解されなければならない。

2 仮に、右主張が理由なしとしても、原判決には次の誤りがある。

第一審判決には、中断の期間が短いときには事実上仮装の推定がはたらき、退職前後の給料等債権の同一性を認め、差押取立命令の効力が再就職のものに及ぶことがあり得ることを認めている。

本件の場合、退職が昭和五一年四月二九日であり、再就職は同年一一月二日である。この間は僅かに六ケ月余である。中断の期間の長短は何を基準にすべきであろうか。

例えば失業保険の給付期間等を顧慮すれば、決して中断の期間が長いとは言えないはずである。

以上、本件の場合、事実上仮装の推定がはたらくと解するのが妥当である。

3 このように解するものでなければ債務者が一旦退職して再雇傭され、これを繰返すことによつて、債権差押・取立命令の効力を容易に逸れることとなり、裁判所の差押取立命令の権威は著しく減退せざるを得なくなるのである。

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